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東京家庭裁判所 昭和42年(家)2379号 審判 1967年4月17日

申立人 丁列斗(仮名)

不在者 李行先(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

一、申立の実情

申立人は被相続人李達東の相続人李行先の財産管理人を選任することの審判を求め、その申立の要旨は「被相続人李達東は昭和四一年五月一八日最後の住所たる東京都足立区○○三丁目二七番七号において死亡した。被相続人には内縁の妻漢淑との間に李享美(一九六三年五月六日生)、李創山(一九六四年七月三〇日生)の二人の子があり、これらの子は日本における外国人登録には被相続人の子として登録してあるが、韓国本籍地の被相続人の戸籍には記載されていない。従つて韓国民法によれば被相続人の相続人は父母であるが父李行先の生死は不明であり、母李元室は既に死亡している。父が死亡しているとしても次順位相続人たる被相続人の異母弟李先天・李山仙・李太東・同異母妹李安令・李令喜の所在も明らかでない。よつて、被相続人の相続人はその生死不明の状態にある。

申立人は、昭和四一年七月一三日○○○株式会社に対する被相続人の債務元利合計金七六八、二四四円を代位弁済して○○○株式会社から被相続人所有名義の東京都豊島区○○○二丁目二〇四一番地三家屋番号二〇四一番三の一木造瓦葺二階建店舗一階四二坪九合五勺二階三四坪二勺の建物に対する停止条件付代物弁済予約による所有権移転請求権の譲渡をうけ前記建物に対する順位二番の停止条件付所有権移転請求権保全仮登記の移転登記を取得した。また、申立人は昭和四一年七月一二日○○信用組合に対する被相続人の債務元利合計金五、六四六、二四〇円を代位弁済して○○信用組合から前記建物に対する停止条件付代物弁済予約に基づく所有権移転請求権およびこの建物に対する順位三番の所有権移転仮登記の移転登記を取得した。

よつて申立人は前記建物を代物弁済として取得したいのであるが、被相続人の相続人の所在が不明のためその意思表示を到達させることができないので、利害関係人として財産管理人の選任を求める」というのである。

二、当裁判所の判断

本件申立は不在者たる亡李達東の相続人李行先の財産管理人の選任を求める趣旨と解されるところ、本件記録によれば亡李達東は韓国人であつたことが認められるから、本件はいわゆる渉外事件に該当するものと解される。

まず李達東の相続人は父たる李行先であるかという点については、法例第二五条によつて被相続人たる李達東の本国法即ち韓国相続法によつて定まるところ、韓国相続法第一〇〇〇条一項一号、一〇〇三条一項により第一順位の相続人は直系卑属と配偶者であるが、内縁の妻との間に二人の子供があるというのであるから、まず、李達東の相続人は父ではなく直系卑属ではないかという疑いがあるのでこの点について調べてみる。

本件記録中の登録済証二通および出生届出受理証明二通および丁美淑の供述によると、申立人主張の李享美(一九六三年五月六日生)は李達東の長女として、李剣山(一九六四年七月三〇日生)は同人の長男としてそれぞれわが国に外人登録がなされているが、同人らは李達東および同人と内縁関係にあつた丁美淑との間に日本において出生した子であること、出生届出はいずれも李達東が父として、李享美については昭和三八年五月二〇日、李剣山については昭和三九年八月一一日、それぞれ葛飾区長宛母丁美淑との間の子として届出をなしたことが認められる。

ところで、このような婚姻外の子と父との間に親子関係があるかどうかの問題は通常認知の要件および効力に関連すると解せられるから、法例一八条一、二項を適用し、父母の本国法たる韓国法を適用すべき場合であるが、韓国民法第八五五条一項は婚姻外の子は認知することができるとし、第八五九条は認知は戸籍法の定めるところにより、申告によつてその効力を生ずる旨規定し、同国戸籍法六二条は父が婚姻外の子に対して親生子出生の申告をしたときはその申告は認知の効力があるとしている。

そこで前述、わが国の戸籍吏宛なされた出生届出にもこのような認知の効力があると解すべきかという点について考えてみると、法例一八条一、二項は認知の実質的要件と効力についてのみ規定するが、形式的要件たる行為の方式については何ら規定するところがないので、認知の方式については認知も身分上の法律行為であるから法律行為の方式に関する法例八条一、二項を適用すべきものと解される。そうすると、同条第一項によりまず、認知届はその認知の効力を定める父の本国法たる韓国法によるべきも、行為地法たる日本法による届出も有効とされ、さらに、父のなす出生届出も右認知の意思表示を含むものと解するときは、一種の法律行為として、同様に八条二項が準用されるものと解される。

然るときは結局李達東のなした李享美、李剣山の出生届には認知の効力があると解すべく、したがつて、李達東の死亡により同人らが第一順位の財産相続人として李達東の財産を相続したものと認められるから、李達東の遺産をその父李行先が相続したことを前提とする本件申立の理由のないことは、明らかというべきである。

よつて本件申立を却下し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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